「はじまったねえ」
楽屋の隅、床に置いた座布団に寝かされている女の子が、リハーサルの音出しが聞こえてきたその時、ふっと目を開けてつぶやいた。 熱にうかされた赤い顔が、ホーっと笑った。
お父さんは音響技師、お母さんはアコーディオン奏者。タンゴの節句の時期はキーーーっとなる忙しさ。 女の子と男の子は両親の非常事態に影響されて、トンっと高熱を発する。
会場設営前、リハーサル前、両親は代るがわる子供を病院に運び、ライブ会場楽屋に寝かせる。 寂しがるときはお父さんが二人を前後に抱っこおんぶして、会場設営をし、音響チェックをする。 音響お父さんの兄弟従兄弟がふたりを見守り手助けをしてくれる。
「お父さんとお母さんはこれからお仕事です」
子どもたちの目線に合わせて腰をおろし、お母さんは二人の子供に宣言する。
バーンと演奏を終え、お客様に挨拶をし物販をしサインをし一緒に写真を撮り、ようよう楽屋に帰ってくる。
「おつかれさまー!」 晴々とした笑顔のお母さんの声に、女の子と男の子はお母さんに駆け寄り、ようやく抱きつくのだ。
毎年そんな光景を見てきた。 毎年胸がいっぱいになった。 ふたりとももう両親の背丈を超えるくらいに成長し、素敵な10代だ。
まぶしい うれしい